判断能力を欠く利用者との契約  

福祉事業の専門法令知識

高齢者に福祉サービスを利用いただく場合、事業者と利用者との契約に基づいて実施されることになっています。しかし利用者本人に意思能力がない場合には、どのように対応すべきでしょうか。

利用者本人に意思能力がない場合には、利用者本人との契約を締結してもその効果は無効です(改正民法3条の2(法律行為の当事者が意思表示をしたときに意思能力を有しなかったときは、その法律行為は無効とする)改正民法において新設された条文)。

したがって、利用者本人に意思能力がない場合には、成年後見人等法定代理人との契約を行うことになります。成年後見開始等の審判を受けていない場合には、成年後見開始等の審判を先行してもらうことが安全な方法ですが、その暇がない場合、利用者本人と契約するほかありません。意思能力があるかどうかの判断は、後に争いになった場合に、訴訟の中で判断されることになりますが、意思能力の有無は、形式的に決まるのではなく、行為の複雑性、長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)、ミニ・メンタルステート検査(MMSE)の結果、医師の診断、日常的に不可解な行動がないか、契約する契約が本人にとって必要なものか、合理的なものかという観点等から諸事情が勘案されて判断されますので、意思能力の存否が疑わしい場合などには、医師の診断を受けてもらうなどして確認を行うことが必要でしょう。

また、ご家族が代筆して署名する、という対応で契約せざるをえないことも多いと思いますが、いかに親族といえども成年後見人以外は意思能力がない方の代理人となることはできませんので、法的には家族の代筆で効力が発生するということはできません。実際に契約の効力が争われたケースはあまり多くありませんが、ご家族に代筆をいただく場合には、ご本人と当該ご家族との関係性をよくご確認いただくことをご確認いただくことをお勧めいたします。

弁護士: 宮﨑はるか