社会福祉法人のM&Aの手法

福祉事業の専門法令知識

1 はじめに-社会福祉法人のM&Aの手法-

世の中では、M&Aと言われるいわゆる企業買収が、盛んに行われています。多くは、株式会社によって行われるものですが、昨今公益性と非営利性を備えた社会福祉法人においても、複雑化、多様化する福祉ニーズに対応するため、M&Aの必要性が問われております。

ただ、社会福祉法人には、株式という出資持分がないため、M&Aをどのように実現していくか非常に悩ましい問題があります。

この点、社会福祉法は、合併の手続き等を定めることにより手当を行っております。

さらに厚生労働省は、社会福祉法人のM&Aについて、2020年9月11日付で「社会福祉法人の事業展開に係るガイドライン」を策定し、その中で社会福祉法人の合併や事業譲渡等の手続きや留意点等を整理してくれています。そしてその手続きや法令等、実施におけるポイントと留意点をまとめた「合併・事業譲渡等マニュアル」を公開していますので、一度ご確認ください。

以上から、M&Aのスキームとしては、基本的には、①合併と②事業譲渡契約になるかと思います。その他に③社会福祉法人の評議員のメンバーと理事のメンバーを変更することで、事業主体を変更し、実質的にM&Aと同様の効果を達成することも考えられます。

2 ①合併について

合併については基本的な手続きが、社会福祉法で定められています。通常の株式会社と異なる点について、「一部」簡単にご紹介いたします。

合併は、社会福祉法においても、吸収合併、新設合併が定められておりますが、吸収合併(法49条)、新設合併(法54の5)ともに社会福祉法人間のみで可能です。そのため、株式会社が社会福祉法人を合併により吸収することはできません。

また合併を行うには、行政(所管庁)から合併認可を受ける必要があります(吸収合併:法50条3項、新設合併:法54の6第2項)。そのため、事前に行政(所管庁)への説明、相談は必須になります。

さらに「合併・事業譲渡等マニュアル」によると、社会福祉法人では、社会福祉法人外への対価性のない支出は認められないと記載されております。そのため、対価についても、適正な価格を設定しなければならないという注意点があります。

3 ②事業譲渡について

事業譲渡は、社会福祉法に定めはありませんが、社会福祉法人においても、取引行為の一類型として、実施可能と考えられております。

合併とは異なり、事業譲受側は、社会福祉法人でなくても構いません。ただ、当たり前ですが、社会福祉法人でなければ行うことができない事業を譲り受ける場合は、社会福祉法人に対してのみ譲渡できます。もし社会福祉法人でない法人が譲り受ける場合は、新規で、行政から社会福祉法人として認可を受ける必要があります。

また社会福祉法人である譲渡人には行政(所管庁)の認可が結果的に必要となります。というのも、社会福祉法人の基本財産は、定款に記載されておりますが、この基本財産の変更になる可能性が高く、さらに厚生労働省が定めた社会福祉法人定款の例では、定款に事業の種別を明記することになっています。そのため、定款変更が必要となるため、行政(所管庁)の承認が必要となります(法45条の36)。

さらに社会福祉法人は、公益性の高い社会福祉法人であるからこそ、財産の処分にも注意が必要です。もし国庫補助金を受けて取得した財産の処分には、厚生労働大臣等の承認等が必要となることがあり(補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律7条3項等)、さらに租税特別措置法40条の適用を受けた寄付財産を移転する場合は、行政への事前相談が必要となることがありますので、注意してください。

なお、社会福祉法人が対価性の支出が認められていない点については、合併と同様です。

4 ③評議員・理事のメンバーの交代

社会福祉法人には、上述したとおり、株式などの出資持分が存在しないため、評議員と理事を交代することによって、実質的に事業を獲得することも考えられます。この場合、理事会の承認等別途手続きが必要ですが、この点をクリアできるのであれば、合併や事業譲渡よりも、一般的には負担は軽くなります。

しかしながら、このとき退任する理事に何かしらお支払いできるのかという点は、非常に難しい問題があります。出資持分が存在しない社会福祉法人という性質上、「対価」を交付することはできません。しかし、退任する理事は、私財を投入していたり、十分に理事としての報酬を受けずに社会福祉法人を経営していたりする場合があり、社会福祉法人としても、退任する理事としても何かしらの金員の交付を検討することがあります。

その際には社会福祉法人としては、退職金による交付する等が実務上用いられていることがありますが、この点については非常に難しい問題がありますので、もし具体的に上記のような問題に直面された場合は、一度当事務所にご相談いただきたく存じます。

以上

弁護士: 横山和之