従業員募集にあたっての注意点
福祉事業の専門法令知識
1 法令や厚生労働省令で定める人員基準
高齢者福祉サービス事業者は、各介護サービスを提供するにあたり、法令や厚生労働省令で定める「人員基準」を満たす必要があるため、他の業界とは異なり、特に人材の募集には注意しておく必要があります。
退職者が出ることで人員基準を下回った場合には、介護報酬の減算や、場合によっては介護事業の指定取消となるおそれもあります。
退職者が出てしまった際、急いで採用して採用に失敗してしまうことがないよう、余裕を持って新たな人材を見定めて採用する等、定められた人員以上の従業員を確保するための対策をとっておくことが大切となります。
2 募集内容と実際の労働条件
人材を募集するにあたっては、募集の内容と実際に雇用した際の労働条件とを一致させる必要があります。
募集内容と異なる条件で雇用すると、職業安定法5条3(労働条件の明示に関する規定)に違反することになります。また、募集(求人票)の内容と実際の労働条件に差異がある場合、当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなど特段の事情がない限り、求人票記載の労働条件が雇用契約の内容になる場合があるので、十分な注意が必要です(大阪高判 平2・3・8 労働判例575号59頁参照)。
3 労働条件の明示
採用時には、労働条件に関するトラブルを避けるためにも、きちんと労働条件通知書、及び、雇用契約書を作成すべきです。
なお、明示しなければならない労働条件に関しては、労働基準法15条、労働基準法施行規則5条において、以下の項目が定められております。
- 労働契約の期間に関する事項
- 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
- 就業の場所及び従事すべき業務に関する事項
- 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当及び第五号に規定する賃金を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
- 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
- 臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与及び第八条各号に掲げる賃金並びに最低賃金額に関する事項
- 労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰及び制裁に関する事項
- 休職に関する事項
弁護士: 赤松和佳