2026年12月施行「こども性暴力防止法(いわゆる日本版DBS)」~を受けて備えるべきこと
1. はじめに
2026年(令和8年)12月25日、いわゆる「こども性暴力防止法」が施行されます。正式名称は「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(令和6年法律第69号)です。
学校を規律する、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律は、別のコラムで解説予定です。
企業の視点でまず押さえるべき点は次の3つです。
- 学校・保育所等(「学校設置者等」)は、犯罪事実確認が完全に義務化されます(法第4条)。
- 学習塾・スポーツクラブ等の民間事業者(「民間教育保育等事業者」)は、国の認定を受けて初めて制度に参加でき(法第19条・第20条)、認定事業者には確認義務が生じます(法第26条)。
- 5年ごとの再確認(法第4条第4項)と、規程整備・研修・記録管理など継続的な体制構築が求められます。
施行日:附則第1条は「公布の日(令和6年6月26日)から起算して2年6月を超えない範囲内において政令で定める日」から施行するとし、
政令で令和8年12月25日が指定されました。
2. 法令の概要と構造
目的(法第1条)は、児童対象性暴力等が子どもの心身に生涯にわたり回復し難い重大な影響を与えることに鑑み、その防止のための措置を定めることにあります。英国のDBS(Disclosure and Barring Service)を参考にしたことから「日本版DBS」とも呼ばれています。
制度運用の詳細は、こども家庭庁「こども性暴力防止法施行ガイドライン」(令和8年1月)(全341頁)に示されています。以下、条文と併せて同ガイドラインの該当章・頁を引用します。
3. 制度の内容
(1) 主要な定義(法第2条)
法第2条は、制度の適用範囲を画する重要規定です。
- 第1項「児童等」 :児童生徒等(教職員性暴力防止法第2条第2項)+高等専門学校1〜3年生・専修学校在学者
- 第2項「児童対象性暴力等」:教職員性暴力防止法第2条第3項の児童生徒性暴力等に相当する行為
- 第3項「学校設置者等」 :学校・幼保連携型認定こども園・保育所・乳児院・児童養護施設・障害児入所施設・児童相談所等を設置・運営する者
- 第4項「教員等」 :校長・教諭等、施設長・従業者のうち子どもの教育保育等に従事する者
- 第5項「民間教育保育等事業者」:専修学校(一般課程)・各種学校、学習塾等(技芸・知識の教授)、放課後児童健全育成事業、認可外保育、病児保育、指定障害福祉サービス等を行う者
- 第6項「教育保育等従事者」:民間側で対象業務に従事する者
- 第7項「特定性犯罪」
- 第8項「特定性犯罪事実該当者」(後述)
学習塾等の「民間教育事業」は、①標準修業期間6月以上、②対面指導、③自己の事業所等での指導、④教授者が政令で定める人数以上、の要件を満たすものとされています(法第2条第5項第3号)。
〔ガイドライン Ⅱ・Ⅲ(定義/対象事業・対象業務)p.13〜71〕
(2) 犯罪事実確認
対象事業者は、教員等・教育保育等従事者を対象業務に従事させるまでに、対象者が「特定性犯罪事実該当者」か否かを確認しなければなりません。
- 学校設置者等:法第4条(第1項が確認義務、第3項が施行時現職者の期限、第4項が5年ごとの再確認)
- 認定事業者 :法第26条
確認は、事業者がこども家庭庁に犯罪事実確認書の交付を申請して行います(法第33条=交付申請、第34条=内閣総理大臣による確認、第35条=交付、第36条=管理簿、第37条=訂正請求、第38条=廃棄・消去)。
なお、内閣総理大臣の権限はこども家庭庁長官に委任されます(法第42条)。
〔ガイドライン Ⅵ「安全確保措置(犯罪事実確認)」p.161〜。確認義務・期限=Ⅵ2(法第4条・第26条関係)p.162、166〕
管理簿は、施行規則様式第2号(下記リンク末尾)となります。
https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/80127231-8582-476e-a6e7-9347e725ed96/21c04186/20251225_policies_child-safety_efforts_koseibouhou_18.pdf
(3) 対象となる「特定性犯罪」
対象犯罪は条文で限定列挙されています(法第2条第7項)。
- 刑法:第176条(不同意わいせつ)、第177条(不同意性交等)、第179条〜第182条、第241条第1項・第3項、第243条(同3項の未遂に係る部分)
- 盗犯等防止・処分法第4条(刑法241条1項の罪を犯す行為に係るもの)
- 児童福祉法第60条第1項
- 児童買春・児童ポルノ法第4条〜第8条
- 性的姿態等撮影処罰法(令和5年法律第67号)第2条〜第6条
- 都道府県条例で政令指定する罪:①痴漢(みだりに人の身体に接触)、②盗撮・のぞき見(下着・身体の撮影等)、③卑わいな言動、④児童との性交・わいせつ
平成29年・令和5年の刑法改正前の旧条文の罪も対象に含める経過規定があります(附則第2条・第3条)。
〔ガイドライン Ⅱ3(法第2条第7項・第8項、附則第2条・第3条関係)p.25〜35〕
(4) 確認できる前科の期間(法第2条第8項)
「特定性犯罪事実該当者」は、次の期間内にある者に限られます。
- 拘禁刑(いわゆる実刑):刑の執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から起算して20年(第1号)
- 拘禁刑(全部執行猶予):裁判が確定した日から起算して10年(第2号)
- 罰金:刑の執行を終わり又は執行を受けることがなくなった日から起算して10年(第3号)
(5) 事業者が講ずべき安全確保措置・防止措置
- 日頃からの未然防止措置(服務規律整備、環境整備、研修、啓発):法第8条・第20条第1項第5号
- 早期把握のための措置(面談・相談体制):法第5条
- 確認結果等を踏まえた防止措置:法第6条
- 性暴力等が疑われる場合の措置(初期対応・調査・保護):法第7条
- 児童対象性暴力等対処規程:認定基準として策定が求められ(法第20条第1項)、認定事業者に遵守義務(法第25条)
〔ガイドライン Ⅴ「安全確保措置(早期把握・相談・調査・保護・支援・研修)」p.114〜/研修=Ⅴ2(3)p.121/面談等=Ⅴ3(法第5条・第20条第1項第2号・第3号関係)p.129/疑い時対応=Ⅴ4(法第6条・第7条関係)p.139。防止措置=Ⅶ(法第6条関係)p.214〜〕
(6) 情報管理・守秘義務
- 確認記録等の適正管理:法第11条・第14条・第20条第1項第6号・第27条第1項
- 目的外利用・第三者提供の禁止:法第12条・第27条第2項
- 漏えい等重大事態のこども家庭庁への報告:法第13条・第27条第2項
- 職員等の秘密保持義務:法第39条
〔ガイドライン Ⅷ「情報管理措置」p.244〜/守秘義務=Ⅷ3(法第39条等関係)p.272〜274〕
(7) 認定制度と表示(第三章)
- 認定の申請:法第19条、共同認定:法第21条
- 認定の基準:法第20条(対処規程・安全確保措置・情報管理体制の整備等)
- 公表:法第22条/表示:法第23条(認定を受けない者の紛らわしい表示は禁止)
- 変更届出:法第24条/廃止届出:法第31条/認定の取消し等:法第32条
〔ガイドライン Ⅳ「認定等」p.72〜/認定基準=Ⅳ2(法第20条関係)p.74/表示=Ⅳ5(法第23条・第45条・第48条関係)p.98/取消し=Ⅳ9(法第32条関係)p.111〕
(8) 監督(第二章・第三章)
- 帳簿・定期報告:法第15条・第28条
- 報告徴収・立入検査:法第16条・第29条
- 確認義務違反の公表:法第17条/是正命令等:法第18条・第30条
〔ガイドライン Ⅸ「監督等」p.291〜〕
(9) 罰則(第六章)
〔ガイドライン Ⅵ8(法第44条・第48条関係)p.213 ほか各章の「罰則」項〕
4. 企業として気を付けるべきこと
① 自社の区分を確定する(法第2条第3項/第5項)
学校・保育・児童福祉に当たれば「学校設置者等」として当然に義務対象、学習塾・スポーツ・習い事等は「民間教育保育等事業者」として認定を受けるかの経営判断が必要です。
② 認定取得の要否を早期に検討する(法第19条・第20条・第23条)
認定・「こまもろうマーク」の有無が保護者の選択基準になり得ます。取得するなら、認定基準(対処規程・研修・情報管理体制)の整備に着手すべきです。
③ 就業規則・雇用契約・採用フローを見直す(法第4条・第26条・第6条)
犯罪事実確認を対象業務従事の前提に組み込み、該当時の配置転換等の根拠を規程に明記します。確認未了者を対象業務に就かせない運用が必要です。労働法制上の留意点はガイドライン Ⅶ2(4)p.217、防止措置の濫用防止はⅦ4 p.239、内定辞退者への偏見防止はⅦ6 p.243が参考になります。
④ 情報管理・守秘体制を整える(法第11条・第12条・第13条・第39条)
確認記録はアクセス制限・保存期間・廃棄(法第38条)を定め、取扱者を限定します。漏えいは罰則(第45条第2項・第48条)・損害賠償・レピュテーションの三重リスクです。
⑤ 現職者の確認スケジュールを逆算する(法第4条第3項・第4項)
施行時現職者にも確認期限(学校設置者等は施行日から政令の定める期間内。当局の分散スキーム=ガイドライン Ⅹ3・規則第31条第3項関係 p.336)と5年ごとの再確認があります。計画的な早期申請が実務上重要です。
⑥ 委託先・派遣・個人業務受託者まで視野に入れる
自社雇用者に限らず、派遣労働者・個人業務受託者の扱いを契約・体制に反映する必要があります(ガイドライン Ⅵ6(2)p.205)。
5. おわりに
本法は、子どもと接する事業者に「前科確認」という新たな実務と、規程・研修・記録管理という継続的なガバナンスを求めます。規程整備・システム対応・人事制度の見直しには相応の準備期間が必要です。自社の区分確認と認定取得の要否判断から早めに着手されることをお勧めします。個別のご相談は当事務所までお問い合わせください。
【参照条文・資料】
- 学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律(令和6年法律第69号)/e-Gov法令検索
- こども性暴力防止法|こども家庭庁
- こども性暴力防止法施行ガイドライン(令和8年1月・こども家庭庁)
- 教職員による児童生徒性暴力等の防止(関連法)|文部科学省
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