無縁墓地の処理(墓じまい)について③

1 無縁墓地の権利者の調査

 

無縁墓地ではないかと思われるお墓,お寺として撤去したいお墓があった場合,まずはそのお墓が真の意味で「無縁墓地」と言えるのか,つまり,そのお墓の権利者と言える人がいないのかという点を調査する必要があります。

 

この調査は,お寺が自分でやろうと思うと非常に難しいですが(他人の戸籍などを取得することは,原則としてできませんので),弁護士に依頼すれば,弁護士に認められた権限により,このような調査を実行することは容易です。弁護士は,そのお墓の永代使用契約書に記載されたもともとの利用者(権利者)の住所氏名から,その権利者の住民票から戸籍をたどり,その権利者が逝去されていた場合は,その相続人が誰で,どこに住んでいるのかという情報を,戸籍や住民票で確認できる限り,調査することが可能です。

 

2 権利者がいなくて,正真正銘の無縁墓地であった場合

 

このようにして調査した結果,お墓の権利者がすでに逝去されており,その相続人も一人もいないという場合は,そのお墓について,行政上の手続をとった上で,撤去をしても(本当は,相続財産管理人などを選任して撤去に応じてもらうのが法的にはベストですが,そのための費用もかかることから現実的には難しいと思われます),現実的にはどこからもクレームができることがないと考えられます。

 

3 権利者が見つかった後の対応

 

しかし,実際には,相続人が1人もいなくて,正真正銘の無縁墓であるということは極めて稀であって,遠い親戚が相続人になっているというケースの方が多いものと思われます。

 

では,このような場合,つまり,「無縁墓地だと思っていた墓地の権利者が見つかった場合」にはどのように対応すればよいでしょうか。

 

まずは,お寺としては,この権利者に対して,未払いになっているお墓の管理料の支払いを求めるとともに,権利者に対し,今後も管理料を支払ってお墓を維持していく気持ちがあるかどうかを尋ねることになります。これによって,権利者が,もう墓は撤去してもらって構わない(お骨だけ,納骨堂に入れさせてほしい,というようなお願いもあるかもしれません),と言ってくれた場合は,永代使用権の不存在確認書面といった合意書面を締結したうえで,お墓の撤去のために必要な行政上の手続をとれば,これでパーフェクトです。

 

他方で,この権利者が,「未払いの管理料は支払うから,お墓は残しておいてほしい」と言ってきた場合は,そのお墓は「無縁墓地ではなくなった」ということになりますので,永代使用契約の解除は非常に難しく,原則として,そのお墓は残しておかないといけないことになります(どうしても撤去をお願いしたいときは,その権利者とお話し合いをしていくこととなります)。

 

さて,問題は,「管理料は支払わないが,お墓は残しておいてほしい」と言われた場合ですが,この場合はなかなかやっかいな問題が出てきます。というのは,一般的な永代使用契約書には,管理料を支払わない場合は永代使用契約を解除できるということが書かれているのですが(書かれていない場合はなおさら),裁判例では,永代使用契約については,一般の土地家屋の賃貸借契約と同じように,「お互いの信頼関係が破壊されたときに初めて解除ができる」という考え方を取っています(平成28年9月21日東京地裁判決はこの法理に立ちながらも解除を肯定しました。)。また,永代使用契約においては,管理料とは別に,契約時に,そこそこ高額の永代使用料を一括して支払っており,まるでその土地を墓地利用者が「買った」かのような意識が権利者側にはあるということもよくあります。したがって,管理料を支払わなかっただけで,信頼関係破壊が認められるのかという論点が生まれることになるわけです。上記の東京地裁の判例では,管理料に近しいような性質の護寺会費を20年分支払わなかったことで解除が認められていますが,5年ならどうか,3年ならどうかという点について明確に示した裁判例は見当たりませんでした。

 

いずれにせよ,管理料を支払わないという態度の権利者には,裁判を起こして何も反論が出なければ永代使用契約の解除が認められることになりますが,裁判を起こして反論が出た場合は,しっかりとお寺側の主張立証を行わなければ,簡単に解除が認められるとまでは言えないことになります。

 

墓じまい,無縁墓地の処理についてのお話は,ひとまずここまでとさせていただきます。

 

弁護士 牧野誠司

 

 

一覧に戻る