永代使用権あるいは墓地使用権とは何か?

墓地を使用する権利は,一般的に,「永代使用権(えいたいしようけん・えいだいしようけん)」と呼ばれています。墓地使用権と呼ばれることもありますが,永代使用権と呼ばれることが多いです。

 

さて,では,この永代使用権って,どういう権利なの?というと,実は,民法その他の法律において,永代使用権という権利は,なんと,「全く書かれていません」。衝撃ですね・・・。日本に住む人の多く(宗教を問わず多くの人)は,亡くなったら何らかのお墓に入って永代使用権のお世話になる(?)のに,その権利について書かれた法律が一切ないなんて・・・。それどころか,我妻民法をはじめとする日本の代表的法律解説書にも,永代使用権のことはほとんど書かれていません。永小作権とか,日本人のほとんどがあまりかかわらない権利についてはながながと書いているのに,日本人の多くが死後ではあるけれどお世話になる永代使用権についてきちんと書いていないというのは良くないですよね。なので,これからしばらくこの知恵袋で解説していきます。

 

整理しておきますと,永代使用権は,「墓石」の使用権ではなく,墓地,つまり,「土地(一区画)」の使用権です。法律家的に言うと,動産(墓石)ではなく,不動産(土地)についての権利ということになります。

 

では,さらに法律家が気になる質問に進むと,永代使用権というのは,「物権なんですか?債権なんですか?」ということが気になります。というのは,日本の民法(まぁ,一般的に適用される法律の親玉とお考えください)は,世の中の権利を,「物権」と「債権」の2つにスパーンと分けて,それぞれに原理原則を定めるという壮大なゲームを構築したので,我々法律家は,ついつい,「その権利,物権なの?債権なの?」ということが気になるわけです(今では,物権でも債権でもない権利が多々出てきてますが,全体から見ればほんのわずかというイメージ)。

 

で,永代使用権は物権なのか,債権なのか,ですが,これは「基本的には」答えははっきりしていて,「債権です」ということになります。なぜなら,日本の民法は,「物権法定主義」というのを採用していまして,民法175条なのですが,「物権は、この法律その他の法律に定めるもののほか、創設することができない。」と定めているんです。そして,永代使用権について定めた法律は「ない」ので,民法175条により,永代使用権は物権とは認められない,ということになるわけです。

 

「いやいや,永代使用権は法律では認められてないかもしれないが,『慣習法』により認められてる権利だから物権にしていいだろ!!」という反論も聞こえてきそうですが,ブブ~,民法はご丁寧にこの点について「民法施行法」という法律まで置いてまして(これは司法試験にもまず出ない法律ですが),この民法施行法35条は,「慣習上物権ト認メタル権利ニシテ民法 施行前ニ発生シタルモノト雖モ其施行ノ後ハ民法 其他ノ法律ニ定ムルモノニ非サレハ物権タル効力ヲ有セス」とはっきりと書いているのです。つまりは,慣習法上の権利も,物権としては認めません!と法律がはっきりと言っているわけです。

 

ですので,基本的には,永代使用権あるいは墓地使用権は,債権であって,物権ではありません。

 

ここで,「基本的には」という言葉が挟まってしまうのは,しかしながら,事例によっては(あるいは,裁判官の趣味嗜好によって),永代使用権が物権的パワーを持ってしまうこともあるからです。

 

そもそも,物権と債権の大きな違いは,物権の方が強力なパワーを持っていて,特に,債権は契約の相手方にしかそのパワーを主張できないものの,物権であれば,契約のない第三者に対してもそのパワーを主張できるという強いパワーが認められています。

 

とすると,永代使用権あるいは墓地使用権が債権なのであれば,第三者に対してそのパワーで何かをしろ(あるいはするな)と言う主張はできないはずなのです。

 

しかしながら,福岡高裁昭和59年6月18日判決(昭和53年(ネ)第371号)は,永代使用権あるいは墓地使用権を,債権としつつも,長年にわたり認められてきた特殊な権利であるということを前提に,「物権『的』妨害排除請求」が認められると認めてしまったわけです。

 

このように,裁判所は,債権であるとしながら,「物権『的』妨害排除請求」が認められるとかを突然言い出すので,まぁ,法律というのはある意味で適当なものです。上記の通り,民法176条と民法施行法35条は,「法律に定められたもの以外は物権として扱っちゃダメ!混乱するでしょ!」って言っているのに,物権『的』妨害排除請求なんかを認めちゃうわけです。我々弁護士が,ご依頼者に「裁判は分かりませんよ。裁判官の趣味嗜好もありますから」という話をするのも,こういう判決があるということをよくよく知っているからです。

 

とはいえ,上記福岡高裁の事例では,その墓地の沿革に特殊性があって,これは,墓地使用権というよりも,物権の王様である「所有権」を認めるべきではないのか?というような事実関係もあったようです。そのような事実関係を前提にして,裁判所としても悩みに悩んで,「所有権までは認められないけれど,単なる債権としてはバランスが悪い。なので,物権的債権にしちゃおう」と考えたわけです。

 

したがって,このような判断は特殊事例における特殊な判断と考えるべきで,「基本的には」永代使用権あるいは墓地使用権は,「債権」と考えて良く,その内容は,債権ですから,第一次的には,法律や判例で決定されるのではなく,当事者間の契約(墓地使用契約,墓地使用権譲渡契約,永代使用契約など,名目のいかんを問いませんが)の内容により決定されると考えて良いでしょう。契約書のあるケースでは,永代使用権は,「契約書により基本的な内容が決定される債権である」と考えて良いはずです。また,契約書がないケースでも,原則的には,債権であると考え,その内容は,判例慣習により,当事者の合理的な意思解釈によって決定するということになると思われます。

 

永代使用権については問題が多いので,また続きを執筆いたします。

 

弁護士 牧野誠司

 

 

 

 

 

 

 

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