介護施設利用料の滞納者への対策
福祉事業の専門法令知識
介護施設を運営されている中で、利用者による施設利用料の滞納にお悩みの方も多いかと思います。本コラムでは、利用者による施設利用料の滞納が生じてしまったときの対応、主に利用料を滞納している利用者に退去いただけるのかについて解説いたします。
1 施設利用契約の解除は可能か
高齢者福祉サービスは基本的に利用者との契約によって提供されます。したがって、利用者が施設利用料を滞納した場合、利用者に施設から退去いただくことが可能かについては、契約上利用料の不払いにより解除が可能である旨の条項が定めているかどうか次第です。同条項が定められている場合には、施設利用料の滞納が発生した場合、施設利用契約を解除することで、利用者に施設から退去いただくことが可能です。通常、介護施設利用契約書には、利用料の不払いによる解除の規定は設けられていますが、ご不安な場合には一度弁護士にご相談ください。
2 契約を解除しても利用者が退去してくれない場合
上記の通り、利用者に退去を求めても、なかなか利用者が退去してくれない場合も考えられます。そのような場合には、利用者に対して施設の明渡しを求める訴訟を提起することになります。同訴訟で勝訴し、施設の明渡しを認める判決を得た後は、判決に基づいて明渡しの強制執行を行うことになります。強制執行とは、国家機関が権利者の権利内容を強制的に実現してくれる手続をいい、今回施設から強制的に利用者に退去いただくことを指します。
3 実際の解決方法
以上のとおり、法律上、ご施設利用料の滞納が生じさせているご利用者に退去いただくことは可能です。しかし、法律上は退去が可能であっても、実際上ご利用者の受け入れ先が見つからない場合など、退去手続の実施が難しいことが多いものと思われます。
実際上、滞納が生じている場合には、行政とも連携し、より利用料の安い転居可能な施設を探す等の対応を行う必要があります。
また、そもそも何故利用者が、施設利用料の支払いが滞っているのかという点に着目することも重要です。利用者本人に支払能力が問題ないにも関わらず、施設利用料の支払いが滞っている場合には、ご家族がご利用者の年金を使い込んでしまっている場合などもありえます。ご利用者の金銭の使い込みは、ご利用者への経済的虐待に該当しますので、高齢者虐待防止法7条1項に基づき市町村への通報を行い、ご利用者自身に金銭管理を行っていただくことが考えられます。ご利用者自身が金銭の管理を行えない場合で頼りになる他の親族もいないという場合でも、市区町村長の権限で成年後見申立を行うことが考えられます(老人福祉法32条)。
利用料の滞納問題については、様々な周辺事情を考慮し、行政とも協力しながら、施設そして利用者にとって最適の解決方法を導く必要があります。施設料滞納にお悩みの場合は、ぜひ一度、弁護士にご相談いただき、一緒に解決方法を考えていきましょう。
弁護士: 田代梨沙子