「一人親方は自己責任」はもう通用しない? 改正労働安全衛生法と現場管理のポイント
はじめに:一人親方も法律で守られる時代へ
2026年4月1日、改正労働安全衛生法の主要部分が施行され、建設業や製造業などの現場で働く一人親方やフリーランス(個人事業者等)が、安衛法の保護対象として、また一定の義務の主体として明確に位置づけられました。
契機は、2021年5月17日の建設アスベスト訴訟最高裁判決です。労働安全衛生法について、同判決が「労働者と同じ場所で働く労働者以外の者も保護する趣旨」と判断したことを受け、すでに2023年4月・2025年4月の省令改正で一人親方等の保護措置が先行して義務化されており、今回はその流れを法律レベルで整えたものです。「自社の労働者だけを見ていれば足りる」という発想からの転換が、いよいよ完成した段階といえます。
なお改正は段階施行で、一人親方自身の特別教育受講義務や、後述の災害報告制度は2027年に施行されます。
法改正の2つの重要ポイント
1. 元請・現場管理者の責任拡大
複数の事業者が混在する作業場所において、統括安全衛生責任者の選任や作業間の連絡調整といった元方事業者の統括管理の対象が、「労働者」から一人親方等を含む「作業従事者」へ拡大されました。
あわせて元方事業者(元請)には、関係請負人とその作業従事者が法令に違反しないよう指導し、違反があれば是正のため必要な指示を行う義務が課されています。
なお、危険箇所への立入禁止や墜落防止措置は、もともと作業を請け負わせる事業者が講ずべき措置として2023年4月・2025年4月の省令改正で義務化されている点にご注意ください。
2. 機械等を貸与する者の責任強化
機械等の貸与に関する義務の対象に、貸与先としての個人事業者が加わりました。
ただし、対象となる機械等は政令で限定列挙されており、つり上げ荷重0.5トン以上の移動式クレーン、車両系建設機械、不整地運搬車、作業床の高さ2メートル以上の高所作業車などです(足場材や汎用の電動工具は含まれません)。また義務を負うのは、これらを対価を得て業として貸与する者、すなわちレンタル・リース事業者です。
義務の内容は、①事前の点検と異常時の整備、②能力・特性その他使用上注意すべき事項を記載した書面の交付(口頭では足りません)です。「貸与記録の作成」自体は法律上の義務ではありませんが、交付書面の控えを残す運用が実務上望まれます。
企業(元請)が直面する課題と見直すべき実務
ここで注意が必要なのは、「一人親方には指揮命令できないから、周知にとどめる」という運用です。改正法は、むしろ安全衛生上必要な指示を行うこと自体を義務としており、一人親方側にもその指示に従う義務を課しています。
実務では「指示をすると労働者性を認められたり、偽装請負と判断されるのではないか」との懸念から必要な指示をためらう例が多く、厚生労働省もこれを問題視して、安全衛生上の指示と労働者性・偽装請負の判断との関係を整理した通知を出し、躊躇せず指示するよう求めています。安全衛生の確保に必要な指示は行い、業務の遂行方法一般への指示とは区別して運用・記録する、という整理が正確です。
そのうえで、事故が起きた際に「口頭で伝えたつもりだった」という説明では不十分とみなされる可能性が高いことに変わりはありません。新規入場時の安全説明をチェックリスト化し、「いつ・誰に・どのような安全教育や機械等の説明を行ったか」を書面やデータで記録・保存するオペレーション構築が急務です。
なお2027年1月からは、一人親方が現場の事故で死亡または4日以上休業した場合、直近上位の注文者などが労働基準監督署に報告する制度が始まります。災害情報を把握できる体制づくりも、あわせて準備しておく必要があります。
まとめ:事前のリーガルチェックで現場と会社を守る
「一人親方は独立した事業主だから自己責任」という意識のままでは、法令違反を見過ごすことになります。安衛法違反が直ちに賠償責任になるわけではありませんが、その違反は民事上の注意義務違反を基礎づける有力な事情となります。安全管理や情報共有が不十分と判断されれば、元請企業は安全配慮義務違反や不法行為を理由に多額の損害賠償責任を問われるおそれがあります。一人親方が労災保険に特別加入していない場合、公的給付がないため直接請求に至りやすい点も見落とせません。
こうしたリスクを未然に防ぐため、改正法に適合した請負契約書への見直し(工期・納期の設定や安全衛生経費の負担を含みます)と、現場の安全書類(エビデンス)の整備について、弁護士に一度ご相談いただくことをおすすめします。