韓国「黄色い封筒法」の施行と日本企業の留意点
1 はじめに
当事務所では、韓国語対応が可能な弁護士が在籍しており、韓国企業との合弁・取引や韓国進出に関するご相談、韓国法が関係する渉外案件についても数多くの対応実績がございます。今回のコラムでは、2026年3月に施行された韓国の通称「黄色い封筒法」(改正労働組合及び労働関係調整法)を取り上げ、韓国に進出済み・進出予定の日本企業が押さえておくべきポイントを解説いたします。
この法律は、韓国内で事業を行う全ての企業に適用されるため、韓国子会社や現地の元請・委託構造を持つ日系企業にも直接影響が及びます。施行からわずか数か月で、1,000を超える下請労組が元請企業に団体交渉を要求するなど、韓国の労使関係の景色は大きく変わりつつあります。
2 「黄色い封筒法」とは
「黄色い封筒法」という通称は、2014年、ストライキを行った自動車メーカーの労働者らに対し裁判所が47億ウォンの損害賠償を命じた際、労働者を支援するため一市民が4万7000ウォンを入れた黄色い封筒を送ったことに由来する市民運動から生まれたものです。過去2回、大統領の拒否権行使により廃案となりましたが、2025年8月に国会で可決され、2026年3月10日に施行されました。
改正の柱は次の3点です。
- ① 「使用者」概念の拡大:労働契約の当事者でなくても、労働者の労働条件を「実質的かつ具体的に支配・決定できる地位」にある者は、その範囲で使用者とみなされます。これにより、元請企業や親会社が、下請・子会社の労働組合から団体交渉を求められる可能性が生じました。
- ② 労働争議の対象拡大:従来の「労働条件の決定に関する事項」に加え、「労働条件に影響を及ぼす事業経営上の決定」(構造調整に伴う整理解雇・配置転換等)も、団体交渉やストライキの正当な目的となり得ます。
- ③ 損害賠償責任の制限:違法な争議行為による損害についても、裁判所は、不真正連帯責任下において、組合員ごとの地位・関与度等に応じて個別に責任範囲を定めなければならないとされました。
3 施行後の動向
施行から約100日の間に韓国では、団体交渉が既に439か所において要求されており、労働委員会の所定の手続きは、141か所の元請に対して行われ、そのうち、103か所において、使用者性の認定がなされるなど、団交の要求は急増しています。
4 日本企業が留意すべきポイント
第一に、韓国拠点の契約構造の点検です。韓国子会社・支店が下請・委託・代理店を利用している場合、作業指示、工程の連動、残業の承認、人件費の実質的決定、安全管理などの各場面で、契約上の一般的な指示・調整(適法)と「構造的統制」(使用者性を招く)の区別を意識した運用・記録の整備が求められます。
第二に、団体交渉を要求された場合の初動です。韓国では正当な理由のない団交拒否は刑事罰の対象となる不当労働行為に当たるため、安易な門前払いは禁物です。要求議題ごとに交渉義務の有無を精査し、交渉に応じるか労働委員会等で法的判断を求めるかの方針をあらかじめ整えておく必要があります。
第三に、M&Aや新規進出の際の労務デューデリジェンスです。対象会社の下請構造や既存の労使関係、係属中の労働委員会事件の有無は、従来以上に重要な調査項目となります。
5 おわりに
黄色い封筒法をめぐっては、韓国政府による運用基準の追加策定や補完立法の議論が続いており、今後も状況が変化していくことが見込まれます。当事務所では、韓国語対応可能な弁護士を中心に、韓国進出・韓国企業との取引に関するご相談、現地法律事務所と連携した対応が可能です。韓国ビジネスに関してご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。