「重大製品事故」発生時に企業がすべきこと
近年、スマートフォンのバッテリーが突然発火する事故が多発しています。実際に発火事故が生じたとき、そのバッテリーの製造業者や輸入業者は、行政当局に対し、一定の報告義務を負います。
最初に強調しておきたいのは、これは製品のメーカーだけの問題ではない、ということです。後述する事故報告義務を負うのは「製造事業者又は輸入事業者」であり(消費生活用製品安全法(消安法)35条1項)、損害賠償責任についても、製造物責任法は「業として輸入した者」を製造業者と同列の責任主体と定めています(同法2条3項)。そのため、海外メーカー製のバッテリーを輸入・販売した企業も、注意が必要です。以下、消安法を中心に、重大製品事故発生時の企業対応を整理します。
1 「重大製品事故」
消安法は、消費生活用製品による事故のうち、①死亡、②治療期間30日以上の重傷病、③後遺障害、④一酸化炭素中毒、⑤火災(消防が確認したもの)を「重大製品事故」と定義しています。火傷の治療期間が30日以上に及ぶ場合や、消防が「火災」として確認した場合は該当します。ぼや程度で被害が軽微に見えても「火災」に当たれば重大製品事故になる点に注意が必要です。上記のとおり、消防の判断も重要ですので、場合によっては、通報を処理した現地の消防署とのコミュニケーションも必要となります。
2 10日以内の報告義務と公表
重大製品事故が発生したことを知った製造事業者・輸入事業者は、事故発生を知った日から10日以内に、消費者庁へ報告しなければなりません。重要なのは起算点で、「原因が自社製品と確定してから」ではなく「事故の発生を知った日」から10日です。原因調査中でも報告は遅らせられず、原因究明は報告と並行して行うのが法の建付けです。報告を怠り、または虚偽の報告をすれば体制整備命令の対象となる可能性があります。
報告された重大製品事故は、原則として消費者庁により公表されます。さらに事故情報は経済産業省を通じてNITE(独立行政法人製品評価技術基盤機構)に共有され、NITEによる原因調査の結果が、事業者名・機種名入りの事故情報データベースとしてウェブ上で公表され、誰でも検索できる状態になります。重大に至らない事故も、NITEの事故情報収集制度を通じて公表の対象となります。「報告すれば社名が出る」ことを前提に、自社サイトでの告知や顧客説明を準備しておく必要があります。
3 リコールの判断
報告と並行して検討すべきがリコール(回収・無償修理・注意喚起等)です。リコールは原則として事業者の自主判断ですが、事故の重篤性、再発可能性、対象製品の流通量などから判断することになります。スマートフォンのバッテリー発火のように事故態様が重篤で再現性が疑われるケースでは、原因確定前でも使用中止の呼びかけなど段階的な措置を先行させることが実務的です。
4 民事責任
被害者との関係では、製造物責任法(PL法)により、製品の欠陥から生じた生命・身体・財産への損害について、過失の有無を問わず製造業者等が賠償責任を負います。冒頭のとおり輸入業者もここに含まれ、自社で製造していないことや海外メーカーの検査への信頼は免責事由になりません。事故品の確保と保全は、原因究明のためにも訴訟対応のためにも最優先事項です。
5 電気用品安全法との関係
少し話は変わりますが、電気用品安全法(電安法)にも注意が必要です。電安法は、製造・輸入事業者に対し、事業の届出、技術基準への適合、自主検査、PSEマークの表示を義務付け、PSEマークのない電気用品の販売・販売目的の陳列を禁止しています。たとえばスマホのバッテリー(リチウムイオン蓄電池)は2019年から規制対象となっており、無表示品の輸入販売は、事故が起きたかどうかにかかわらず、それ自体が違法です。違反には1年以下の懲役・100万円以下の罰金が定められ、法人には最大1億円の罰金という重課もあります。実務では、事故対応の過程で無表示販売や技術基準不適合が発覚する例も少なくありません。事故が起きる前は電安法、起きてしまえば消安法とPL法――電気製品の輸入事業者は三段構えの規制を負っていることを意識し、平時からのコンプライアンス確認を怠らないことが重要です。
6 初動対応の重要性
今回はスマートフォンのバッテリーが発火する事故を念頭に述べましたが、「消費生活用製品」に関する事故であれば、企業の対応が求められます。製品事故対応は、報告義務・リコール・PL訴訟・広報が同時進行する総力戦です。10日という期限の中で判断を誤らないためには、平時からの社内報告ルートの整備、顧問弁護士の存在が何よりの備えになります。事故発生時の初動判断に迷われた際は、早めにご相談ください。