内部通報・外部通報・公益通報の違いとは?―企業が押さえておきたい基本と、通報を受けたときの対応―
「内部通報」「外部通報」「公益通報」――よく似た言葉ですが、意味も、法律上の扱いも異なります。実務では、この3つを混同したまま対応してしまい、思わぬトラブルにつながることが少なくありません。ここでは、それぞれの違いと、企業が取るべき対応を、公益通報者保護法の条文を示しながら整理します。
なお、公益通報者保護法は2025年(令和7年)に大きく改正され(令和7年法律第62号、2025年6月11日公布)、2026年12月1日に施行されます。この改正で、通報者の保護が一段と強化されました。
1.「内部通報」と「外部通報」は、“誰に知らせるか”で決まる
公益通報者保護法は、通報先を大きく3つに分けています。すなわち、勤務先の会社(役務提供先)または会社があらかじめ定めた者、権限を有する行政機関、報道機関その他の外部、の3つです。ここで大切なのは、内部通報か外部通報かは、窓口が社内にあるか社外にあるかで決まるのではなく、この「誰に対して知らせるか」で決まる、ということです。
「内部通報」とは、勤務先の会社、または会社があらかじめ定めた窓口に知らせることをいいます。この点、その窓口が社内か社外かは問わず、会社がコンプライアンス部門などに設けた窓口はもちろん、会社が外部の法律事務所や専門業者に委託して設けた窓口(いわゆる「社外窓口」)であっても、会社が自社の通報先として「あらかじめ定めた者」である限り、法律上は「内部通報」に位置づけられます。
これに対して「外部通報」とは、会社の外――具体的には、権限を持つ行政機関や、報道機関など――に知らせることをいいます。
つまり、「社内窓口・社外窓口」という“場所”の違いと、法律上の「内部通報・外部通報」の区別は一致しません。委託先の法律事務所の窓口は、社外にあっても「内部通報」の受け皿である、という点は、実務でよく誤解されるところです。
2.「公益通報」は、“何を知らせるか”という中身の話
一方、「公益通報」は、通報の“中身”に着目した法律上の概念です(同法2条1項)。公益通報者保護法で守られる通報のことで、最大のポイントは、対象となる違反が限られているという点です。
具体的には、同法2条3項が定める「通報対象事実」――すなわち、法律の別表および政令で指定された特定の法令に規定する、刑罰や過料の対象となる違反行為など――の通報だけが「公益通報」として保護されます。国民の生命・身体・財産や、消費者の利益、環境の保全、公正な競争などを守るための法律が中心です。
ここで誤解が多いのが、「パワハラを通報すれば公益通報として守られる」わけではない、という点です。パワハラ防止の措置義務(労働施策総合推進法30条の2)は、それ自体に刑罰が定められていないため、上記の「通報対象事実」に当たらず、原則として公益通報の対象にはなりません(暴行・傷害など刑法上の犯罪に至れば別です)。「社内で問題のある行為を通報した=すべて公益通報」ではない、という点に注意が必要です。
3.公益通報者保護法は、通報した人をどう守るのか
公益通報者保護法は、勇気を出して通報した人が、そのことで不利益を受けないように保護する法律です。一定の要件を満たす公益通報をしたことを理由とする解雇は無効とされ(同法3条)、降格・減給その他の不利益な取扱いも禁止されます(同法5条)。また、通報したことによって会社が損害を受けたことを理由に、通報者へ損害賠償を請求することもできません(同法7条)。
なお、保護される要件は、通報先(会社の内部・行政機関・報道機関等)によって異なり(同法3条各号)、会社の内部への通報が最も緩やかな要件で保護されます。だからこそ、先ほどの「委託先の法律事務所窓口=内部通報」という位置づけは、通報者にとって重要な意味を持ちます。
さらに、2025年(令和7年)の改正(2026年12月1日施行)により、通報者の保護が大きく強化されました。主なポイントは次の3点です。
第一に、公益通報を理由とする解雇・懲戒の不利益な取扱いをした者に対して、新たに刑事罰が科されます。個人は6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金、法人は3,000万円以下の罰金です(両罰規定)。これまで不利益な取扱いは「無効・禁止」という民事上の効果にとどまっていましたが、改正後は刑事罰の対象にもなります。
第二に、公益通報の後1年以内に行われた解雇・懲戒は、公益通報を理由とするものと推定されます(会社が別の理由を証明できれば、この推定は覆せます)。通報者が「通報が原因だ」と立証する負担が軽くなる、実務上とても重要な変更です。
第三に、保護される通報者の範囲が広がり、業務委託を受けるフリーランス(委託が終了してから1年以内の人を含む)も保護の対象に加わります。
4.企業に求められる「体制整備」 ― 義務と努力義務
2020年改正法(令和4年6月1日施行)により、企業には、公益通報に適切に対応するための体制整備が求められるようになりました。企業の規模によって、義務の重さが分かれています。
常時使用する労働者が300人を超える企業では、公益通報対応業務従事者の指定(同法11条1項)や、窓口の設置・調査・是正などの必要な体制整備(同条2項)が法律上の義務です。これに対し、常時使用する労働者が300人以下の企業では、同じ整備が努力義務とされています(同条3項)。
さらに、通報対応の担当者(公益通報対応業務従事者)には守秘義務が課され(同法12条)、通報者を特定させる情報を漏らすと刑事罰(30万円以下の罰金)の対象になります(同法21条)。通報制度は「置いているだけ」では足りず、運用まで含めて整えておく必要がある、ということです。
加えて、2025年改正(2026年12月1日施行)では、事業者の義務も強化されました。内部通報の窓口や制度を労働者に知らせる「周知義務」が、これまでの指針上の扱いから法律上の義務へと格上げされます。また、通報を妨害する行為や、通報者が誰かを特定しようとする行為が法律上禁止され、これらに反する合意は無効とされます。あわせて、監督官庁である消費者庁の権限(命令・立入検査など)も強化されます。
5.3つの関係を整理すると ― “器”と“中身”の入れ子構造
ここまでを整理すると、次のような関係になります。「内部通報・外部通報」は、通報を受け止める“器(ルート)”の話です。整備は基本的に企業の取組みで、公益通報者保護法は一定規模の企業にその整備を求めています(同法11条)。
「公益通報」は、その器の中に入ってくる通報のうち、“特定の法令違反”という中身を持つもの(同法2条3項の通報対象事実)です。これには、通報者の保護(同法3条・5条・7条)、体制整備義務(同法11条)、担当者の守秘義務と罰則(同法12条・21条)といった、強い法的効果が及びます。
つまり、広い「通報」という器の中に、法的に手厚く扱われる「公益通報」がある、という入れ子の関係です。単なるパワハラの相談のように公益通報に当たらない通報もありますが、その場合でも、企業としては誠実に調査し、通報者に不利益を与えない対応が求められます。
6.通報を受けた企業がすべきこと・してはいけないこと
通報を受けた企業には、受付・調査・是正という一連の対応と、通報者の秘密を守ることが求められます。これらの具体的な内容は、公益通報者保護法11条2項に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)で定められており、通報者の探索の禁止、範囲外共有の防止、通報者に対する不利益な取扱いの防止などが掲げられています。
実務上、特に注意したいのは次の点です。通報内容や通報者の情報は、調査に必要な範囲だけで共有してください。「こんな通報があった」と会議や雑談でうかつに口外することは避けるべきです。通報者が特定されれば、守秘義務違反(同法12条)や、通報者への不利益な取扱いにつながりかねません。また、通報したことを理由に、その人を不利に扱ってはいけません。これらは、公益通報に当たる場合はもちろん、当たらない社内通報の場合でも、信頼される制度運用のために欠かせません。
これらの点は、2025年改正(2026年12月1日施行)により、通報妨害の禁止・通報者の探索禁止として法律上明確に位置づけられました。うかつな口外や通報者探しは、法律違反に直結しうるという意識が、これまで以上に求められます。
7.まとめ
「内部通報・外部通報」は誰に知らせるかの話、「公益通報」は特定の法令違反という中身の話です。特に、委託先の法律事務所の窓口が「内部通報」にあたる点や、パワハラ単体は公益通報に当たらない点は、実務で誤解されやすいポイントです。通報対応は、一歩間違えると通報者保護や守秘義務の問題に直結する、繊細な分野です。制度の設計や、実際に通報を受けたときの対応にお悩みの際は、早めに当事務所までご相談ください。