休日の部活動は、誰が責任を負うのか ~本格化する「部活動の地域展開」と運営団体の法的責任~
令和8年度(2026年度)から、休日の部活動を地域のクラブ活動へと移していく「地域展開」が、全国的な本格実施の段階に入り、中学校の部活動は大きな転換点を迎えます。
この動きは、単なる行政の政策方針にとどまらず、令和7年6月に公布されたスポーツ基本法の改正により法律上の根拠が整備され、令和7年12月には文部科学省が新たなガイドラインを策定しました。そして、その受け皿となる運営団体としては、民間企業やNPO法人等が想定されています。
本コラムでは、地域クラブ活動の運営を担う企業・団体の立場から、押さえておくべき法的責任と実務対応について解説します。
1 はじめに
部活動は、長らく学校と教員が担ってきました。生徒が怪我をすれば学校側が対応し、指導上の問題が起きれば学校が組織として責任を引き受ける。その前提が、いま変わろうとしています。
文部科学省が令和7年12月22日に公表した「部活動改革及び地域クラブ活動の推進等に関する総合的なガイドライン」は、部活動改革を進める上で民間企業との連携が不可欠であるとし、民間企業に期待される役割の一つとして「地域クラブ活動の運営団体・実施主体を担うこと」を明示的に挙げています。あわせて、企業側のメリットとして、CSRの一環としての地域貢献、地域における企業の信頼性向上、人材採用・定着に関する好影響等が示されています。
もっとも、運営を引き受けるということは、これまで学校が負ってきた責任を引き受けることをも意味します。そして、同ガイドラインは、活動の在り方や体制整備について詳細に定める一方、指導者との契約関係や労働時間管理といった労働法上の論点には、ほとんど触れていません。ガイドラインが求める体制を整えることと、法的リスクに備えることとは、必ずしも同じではなく、注意が必要です。
2 制度の概要
(1)法律上の根拠――スポーツ基本法の改正
令和7年6月20日、スポーツ基本法及びスポーツにおけるドーピングの防止活動の推進に関する法律の一部を改正する法律(令和7年法律第71号)が公布されました。同法制定以来の本格的な改正であり、部活動の地域展開に関わる規定が新設されています。
まず、第17条の2が新設され、地方公共団体は、中学校の生徒の数の減少及びこれに伴う中学校の部活動の実施に係る状況を踏まえ、学校、地域スポーツクラブその他の団体との緊密な連携の下に、中学校の生徒が地域においてスポーツに親しむ機会を確保するために必要な施策を講ずるよう努めなければならないこととされました(同条1項)。この法改正により、部活動の地域展開は、法律上の裏付けを得たことになります。
また、第29条(暴力等の防止)が新設され、スポーツ団体は、その行う事業について、スポーツを行う者に対する暴力等によりスポーツを行う者の環境が害されることのないよう努めるものとされました(同条2項)。さらに第29条の5第2項では、スポーツ団体は、スポーツ庁長官が定めるスポーツ団体の適正な運営に関する指針に基づき、自らが遵守すべき基準を作成し、当該指針に従って講じた措置の状況等を公表すること等により、その運営の公正性及び透明性の確保を図るよう努めるものとされています。
(2)改革のスケジュール
新ガイドラインが示す改革のスケジュールは、次のとおりです。
・令和8年度から令和13年度までの6年間を「改革実行期間」とする。
・うち令和8年度から令和10年度を「前期」、令和11年度から令和13年度を「後期」とする。
・前期の終了時に、改革の進捗状況等について「中間評価」を実施する。
・休日の地域展開については、改革実行期間内に、原則、全ての学校部活動において実現を目指す。
・平日については、各種課題を解決しつつ更なる改革を推進する。
なお、従来「地域移行」と呼ばれていた取組は、令和7年5月16日に公表された「地域スポーツ・文化芸術創造と部活動改革に関する実行会議」の最終とりまとめを受け、「地域展開」に名称が改められています。
(3)認定制度の新設
新ガイドラインで新たに導入されたのが、地域クラブ活動に関する認定制度です。国が示す認定要件及び認定手続等に基づいて市区町村等が認定を行う仕組みであり、認定された活動は「認定地域クラブ活動」と呼ばれ、認定要件は、次の7項目です。
① 学校部活動が担ってきた教育的意義を継承・発展させた活動であること
② 適切な活動時間や休養日が設定されていること
③ 活動の維持・運営に必要な範囲で、可能な限り低廉な参加費等が設定されていること
④ 適切な指導の実施体制が確保されていること
⑤ 適切な安全確保の体制が確保されていること
⑥ 適切な運営体制が確保されていること
⑦ 学校等との連携が適切に行われていること
認定を受けた場合には、地域クラブ活動の運営等への公的支援(財政支援、学校施設等の優先利用・使用料減免、学校備品等の活用等)や、地域クラブ活動への従事を希望する教師等の兼職兼業の積極的な許可といった効果が想定されています。
認定の有効期間は、最長3年間の範囲内で市区町村等が設定します。市区町村等は、定期的な報告やヒアリング、現地確認等により取組状況等を把握し、不正があった場合等には認定の取消しを行うこととされています。
3 実務上の留意点
(1)事故が起きたとき、誰が賠償責任を負うのか
運営団体にとって最も重要な変化は、賠償責任の構造にあります。
新ガイドラインは、地域クラブ活動の運営主体や、事故等の原因主体に応じて賠償責任主体や賠償制度・保険の取扱いが異なるとしています。市区町村以外の団体が運営主体となっている場合、賠償責任の主体は以下のとおりとなります。
①団体の瑕疵に起因する事故等については、当該団体が賠償責任主体となる。
②指導者の瑕疵に起因する事故等については、指導者が賠償責任主体となるが、指導者が団体に雇用されている場合には、団体も使用者責任を負う。
③活動場所(市区町村立中学校等)の施設・設備の瑕疵に起因する事故等については、運営主体を問わず、施設・設備の管理者である市区町村が賠償責任主体となる(国家賠償法2条)。
つまり、市区町村以外の団体が運営主体であれば、国家賠償法の枠組みから外れ、団体自身が民事上の賠償責任を負う立場に立つことになります。
(2)指導者との契約――雇用か、業務委託か
新ガイドラインは、指導者の確保・育成について詳細に述べる一方、指導者との契約形態については具体的に触れていません。しかし、この点は実務上きわめて重要です。
契約書の表題が「業務委託契約書」であっても、実態として使用従属関係が認められれば、当該指導者は労働基準法上の労働者と評価され、割増賃金の支払義務や労災保険の適用が生じます。また、前記(1)のとおり、指導者が団体に雇用されている場合には、団体が使用者責任を負う場面も生じます。
指導日時・場所の指定の程度、指導内容に関する具体的な指揮命令の有無、報酬の性格、代替性の有無といった要素を踏まえ、実態に即した契約設計を行う必要があります。
(3)兼職兼業の教師等に関する労務管理
地域クラブ活動の指導者としては、兼職兼業の許可を得た教師が有力な担い手として想定されています。新ガイドラインは、兼職兼業を行う教師等について、教師等の身分としての服務監督を行う教育委員会等と、地域クラブ活動の指導者の身分としての勤務管理を行う運営団体等が連携して、勤務時間等の全体管理を行うなど適切な労務管理を実施するとしています。
公立学校の教師については地方公務員としての身分に基づく諸法令の適用があり、その適用関係は単純ではありません。運営団体としては、少なくとも実際の従事時間を把握・記録し、勤務校側と共有できる体制を整えておくことが必要です。
また、民間企業の社員が副業として指導者となる場合には、労働時間の通算の問題が正面から生じ得ます。指導者を受け入れる側としても、社員を送り出す側としても、留意を要する点です。
(4)安全確保の体制と暑熱環境下の活動
上記認定要件のうち「⑤適切な安全確保の体制が確保されていること」については、確認事項として、生徒の発達段階や健康の状態、気温や湿度、暑さ指数(WBGT)等の環境を考慮した上での適切な指導内容・活動時間・休息時間・水分補給の機会等の設定などが掲げられています。
改正後のスポーツ基本法14条2項も、国及び地方公共団体がスポーツ事故の防止等のための措置を講ずるに当たっては、気候の変動への対応に特に留意しなければならないとしています。
職場における熱中症対策が令和7年6月から罰則付きの義務となったこととあわせ、屋外活動を伴う事業を運営する法人にとって、暑熱環境下の安全管理は避けて通れない課題といえます。
職場における熱中症対策の義務化については、当職執筆の下記コラムもご参照ください。
“気合いで乗り切る夏”は違法に?~職場の熱中症対策の義務化について~
4 対応を怠った場合のリスク
第一に、事故発生時の損害賠償責任です。運営主体が市区町村以外の団体である場合、団体自身が賠償責任主体となり、指導者が団体に雇用されているときは使用者責任も問われ得ます。必要な賠償責任保険に加入していなければ、賠償額をそのまま団体が負担することになりかねません。
第二に、労働法上のリスクです。指導者を業務委託として扱っていたところ、実態が労働者と評価されれば、未払いの割増賃金の支払や、労災保険の未加入をめぐる問題が生じます。指導者の人数が多いほど、影響は累積的に大きくなります。
第三に、認定の取消しです。市区町村等は、定期的な報告やヒアリング、現地確認等により取組状況等を把握し、不正があった場合等には認定を取り消すこととされています。認定を失えば、公的支援や学校施設の優先利用といった効果を受けられなくなり、事業の継続そのものが困難になるおそれがあります。
第四に、レピュテーションへの影響です。生徒を預かる事業である以上、事故や不適切行為が生じた場合の社会的な影響は、金額に換算しにくい形で、しかし深刻に及びます。
5 おわりに
部活動の地域展開は、令和7年のスポーツ基本法改正により法律上の位置づけを与えられ、令和8年度から本格的な実行段階に入ります。
受け皿となる企業・団体にとって、これは新たな事業機会であると同時に、これまで学校が担ってきた責任を引き受けることを意味します。そして、ガイドラインが求める体制整備と、労働法・民事責任の観点から求められる備えとは、必ずしも一致しません。認定要件を満たすことは出発点にすぎず、その後の法的リスクも見据えた備えをしておく必要があります。
当事務所では、学校法人の顧問業務に携わってきた経験も踏まえ、指導者との契約書の整備、就業規則・兼業規程の見直し、事故発生時の対応体制の構築、認定申請に向けた規程整備まで、企業・団体の実情に応じたサポートを提供しております。
部活動の地域展開への対応をご検討の際は、お気軽に当事務所までご相談ください。