公式スポンサーではない企業は、大会に便乗した販促をどこまでできるか
大きな国際スポーツ大会が近づいた際に、「自社は公式スポンサーではないが、何か大会を利用して広告を行いたい」と考えたことはないでしょうか。本コラムでは、そのような広告(いわゆる「アンブッシュマーケティング」)に関して説明させていただきます。
1 アンブッシュマーケティングとは
ambush は英語で「待ち伏せ」を意味します。
アンブッシュマーケティングとは、法律上の用語ではありませんが、公益社団法人日本オリンピック委員会は、「故意であるか否かを問わず、正当な権利を有していないにも関わらず、これらの知的財産を使用したり、オリンピック等の知名度、評判、イメージ等を利用または流用する」広告と定義しています。
要するに、公式スポンサーではない企業が大会ブランドにフリーライドして行う広告宣伝活動のことをいいます。
2 なぜ規制されるのか
規制の目的は、大きく二つあります。
(1)知的財産権の保護
エンブレム、マスコット、大会名称、競技映像などは、それ自体が権利の対象です。無断利用は権利者の利益を直接侵害します。
(2)スポンサーシップの商品価値の保護
スポンサー企業は、高額のスポンサー料金と引き換えに、独占的に広告を行うことができる権利を購入しています。スポンサーではない企業がスポンサー料の負担なく同等の露出効果を得られるのであれば、公式スポンサーになる価値が薄れてしまいます。これは公式スポンサーにとって問題であるだけでなく、大会主催者にとっても、スポンサーとなってくれる企業がなくなるという点で大きな問題となります。
このような目的を達成するために、メガイベントの開催国では、既存の法律に加えて特別立法を行う例もあります。もっとも日本では、2021年に開催された東京オリンピックの際にもこの種の特別立法は行われませんでした。
4 法的にはどこまでが問題なのか
では、日本に特別法がない以上、どのような広告であれば問題なのでしょうか。
(1) 法的に規制されている領域
①著作権法
エンブレム、マスコット、公式ポスター、競技映像、報道写真はいずれも著作物です。無断での複製・掲載は侵害となります。
②商標法
大会名称やロゴの多くは商標登録されています。
③不正競争防止法
不正競争防止法においては、他人の商品等表示として広く知られているものを使用して、他人の商品等と混同を生じさせる行為や、他人の著名な商品等表示を使用する行為を禁止する規定が存在します(不正競争防止法2条1項1号、2号)。実務上は、自社が公式スポンサーであるかのような誤認を生じさせる表示が特にリスクとなります。
④パブリシティ権
選手の氏名・肖像を、その顧客吸引力を利用する目的で無断使用すれば侵害となります。
⑤景品表示法
根拠なく「公式」「公認」「協賛」と表示すれば、不当表示の問題が生じます。
これらに共通するのは、いずれも「識別表示として使用しているか」「誤認を生じさせるか」という形で絞りがかかっている点です。裏を返せば、単に大会に言及しただけの表現が、直ちに違法となるわけではありません。
(2) 法的には規制できないことまで規制される、という問題
上記の点の他に、実務上は、大会主催者がガイドラインを公表している場合があります。
このようなガイドラインには、法的拘束力はありません。それにもかかわらず、法律上の権利よりもはるかに広い範囲を規制されていることが多いです。
この点については、法律違反とはいえない行為を契約関係にない当事者にも強いるものであるとして、かねてより批判があります。ビジネス上の必要性は理解できるとしても、法的保護に値する利益の範囲を超えているのではないか、という議論です。
そして、広範に過ぎる規制は現実の萎縮を生みます。大会スポンサーではないが特定の選手個人のスポンサーとなっている企業、地元出身選手を応援する地域の団体や商店街。こうした活動までが抑制されれば、競技や選手を応援する機運それ自体が冷え込みかねません。
さらに厄介なのは、法的拘束力がなくとも事実上は強く機能する点です。放送局が便乗広告を出稿している企業のCMに難色を示す、施設管理者が掲出を拒否する、SNS上でフリーライドとして批判される。いずれも法的責任とは無関係に発生する、現実の事業上のリスクです。
したがって、「違法か否か」と「やってよいか否か」は別の問題として検討する必要があります。
5 判断に迷われた場合はご相談ください
実務上、まず確認いただきたいのは次の三点です。
- 大会や選手を特定せずに、同等の販促効果を出せないか
- 自社が公式スポンサーだと誤解される要素が含まれていないか
- 使用する画像・映像・氏名について、権利者の許諾を得ているか
多くの案件は一点目で解決します。あえてリスクを取る必要がある場面は、実際には限られています。
しかし、それでも判断が分かれる領域は残ります。法的には適法と評価できる表現であっても、取引先との関係やレピュテーションの観点から避けるべき場合があり、逆に、過度に萎縮して本来可能な広告機会を失う場合もあります。この線引きは、法律論だけでも、コンプライアンス上の配慮だけでも決まりません。
大きなスポーツ大会を機に広告を出したいが、判断に迷われている方は、ぜひ一度、当事務所までご相談ください。