子ども名義の預金が財産分与の対象になるか

財産分与

1 問題の所在

 財産分与において、未成年の子ども名義の預貯金をどのように取り扱うかが問題になる場合があります。子どもは両親(夫婦)とは別人格なので「夫婦共有財産」ではなく財産分与の対象にならないと言えそうですが、他方で、実質的には夫婦共有財産を子ども名義の預金で管理しているだけの場合もあり、このような場合は「夫婦共有財産」として財産分与の対象になると言えそうです。

 実務上も、「子ども名義の預貯金が財産分与の対象になるかどうか」は、それがどのような性質の預金であるかを検討して個別に判断されることとなります。本コラムでは、子ども名義の預貯金が財産分与になるかどうかが問題になった裁判例をいくつかご紹介します。

2 裁判例

(1)否定例

①高松高判平成9年3月27日判タ956号248頁

「控訴人は、右認定の財産のほか、長女名義の預金・・・及び三女名義の預金・・・一も、財産分与の対象に含めるべきであると主張するが、いずれも子に対する贈与の趣旨で預金されたと認めるのが相当であるから、財産分与の対象財産とならない。

 この事例では、子ども名義の預金は「子に対する贈与の趣旨で預金された」ものであると認定して財産分与の対象にならないと判断されました(ただし、「子に対する贈与の趣旨でされた」と認められた根拠は判決では明示されておりません。)。

②大阪高判平成26年3月13日判タ1411号177頁

「控訴人が非常に経済的に余裕のある医師であること,並びに,贈与と表現するかどうかはともかく,世上,預金返還請求権を名実ともに子に帰属させる趣旨で贈与税の課税限度額を超えない範囲で子名義の預金を開設することもよくあることを考慮すると,当該預金が借名預金であることが具体的に立証されない限り,子名義の預金が婚姻共同財産の一つとして財産分与の対象財産になるものとはいえないものと解するのが相当であるところ,本件においては,長男及び二男名義の預金が借名預金であることが具体的に立証されているとはいえない。」

 この事例では、子ども名義の預貯金が名義預金であって実質的には夫婦共有財産であることが「具体的に立証」されない限りは財産分与の対象にはならないと判断されました。

(2)肯定例:東京地判平成16年3月18日

「原告X2は,子供名義の番号3ないし5,8ないし10の預金が子供の特有財産であり清算の対象ではないと主張する。原告らの最年長の長女も現在10歳であり,上記の預金を自ら管理できる状態にないことは明らかである。このような年齢の子供の名義の預金については,用途を限定して他人から譲り受けたような金銭であればともかく,お年玉等の蓄積や,原告X2及び被告夫婦が将来のため子供名義で預金をしたとした場合には,実質的に夫婦の共有の財産とみるのが相当である。

 この事例では、10歳の子供名義の預金について「用途を限定して他人から譲り受けたような金銭」でない場合は財産分与の対象になると判断されました。

3 まとめ

 以上のとおり、裁判例においても、子ども名義の預金が財産分与の対象になるかどうかの判断は分かれており、個別具体的に検討していくことが必要になります。その判断には専門的な知識経験が必要になりますので、子ども名義の預貯金の財産分与に関してお悩みの点がありましたら、是非当事務所にご相談ください。

弁護士: 相良 遼