意図的な減収が疑われる場合の婚姻費用・養育費
婚姻費用・養育費
婚姻費用・養育費において基礎とされる義務者の収入は、当該義務者が現実に得ている実収入とすることが原則となります。
それでは、例えば、別居や婚姻費用・養育費の調停申立てに際して義務者の収入が不自然に減少し、この減収について義務者の操作(わざと減収した)が疑われるような場合でも、減収後の「当該義務者が現実に得ている収入」を基礎に婚姻費用・養育費が算定されてしまうのでしょうか。
まず、上記のような事例において、義務者の意図的な減収操作を認定・否定した近時の審判例として、以下の審判例が参考になります。
【大阪高決平19・3・30】
代表取締役であった義務者が役員報酬の減額を主張したが、義務者が経営者として自らの報酬額を決定できる立場にあったこと、減額の時期が調停の後であること等に照らして、当該減額は「婚姻費用分担額を低額に押えようとの目的でされたものと推認するのが相当」として、減額前の収入を基礎として婚姻費用を算定するとして、従前の収入からの推計を認めた。
【東京家決令3・1・29】
それまで年々増加傾向にあった代表取締役たる義務者の報酬が別居の半年後に大幅減額となった事例において、当該会社の減額年度の売上高がコロナウイルス感染症の感染拡大の影響で大幅に落ち込んでいること、その影響がいつまで継続するか予測が困難であること、減額が過大とまではいえないことなどから、収入減少が「不当であったとは言い難い」として、従前の収入からの推計を認めなかった。
上記の審判例は、義務者による収入操作の可否や減収の時期、減収の理由の相当性などの事情を総合考慮し、当該減収の意図的操作の有無や不当性を判断していることがわかります。
また、義務者の意図的な減収操作を推認させる理由として、以下の審判例のように、義務者の(減収後の)現在の生活状況が従前の生活状況と比較して特段の変化がないことを指摘した審判例もあります。
【大阪高決平21・11・13】
自身の父親が代表取締役を努める会社の取締役であった義務者の役員報酬が、離婚紛争が生じた別居直前に減額となった事例において、当該義務者が現実に支出している住宅ローンや教育費からみて、当該会社発行の源泉徴収票が収入の実態を反映していないとし、当該義務者が養育費の額を低くするために報酬を減額するかのような発言をしていたことも考慮し、養育費の前提となる収入として減額前の同居中の収入を採用した。
以上の通り、義務者の意図的な減収操作が疑われる場合、権利者としては、義務者による減収操作の可否や減収の時期、減収の理由の不自然さ、生活実態の変化のなさなどを主張立証することが重要になっていきます。
弁護士: 原 萌野