有責配偶者からの離婚請求についての近年の裁判例

離婚

  1. はじめに

     
     有責配偶者(不貞等によって婚姻関係を自ら破綻させた配偶者)からの離婚請求についての裁判所の判断基準については、前々回のコラムより解説してきましたが、本コラムでは、同論点についての近年の裁判例について紹介いたします。

  2. 近年の裁判例

     東京家判令和4年4月21日では、別居期間が約6年4か月、同居期間約8年、未成熟子1名(11歳、ASD、ADHDの診断有。)という事案で、有責配偶者の夫からの請求が棄却されています。本件では、別居期間は比較的長期間である事案ではありますが、子供が持つ障害の特性上、両親の離婚という予期しない変化は到底受け入れられないとの医師の意見が重視されています。

     東京高判令和3年1月21日では、別居期間約3年8ヶ月、同居期間約27年、未成熟子なしという事案で、有責配偶者の夫からの離婚請求について、別居期間が婚姻期間に比して短いこと、妻が専業主婦であり、現在の生活費も夫からの婚姻費用の分担によって賄っていること等が指摘され、棄却されています。

     東京高判令和元年8月28日では、別居期間約9年、同居期間約27年、未成熟子なし(ただし、成人した三男が重い精神疾患を患い、母親に完全に依存)という事案で、有責配偶者の夫からの離婚請求について、離婚すれば、無職で61歳の妻と、精神疾患の三男が経済的に過酷な状況に陥ることや、夫が提示した離婚給付も実現可能性が低いこと等を理由に、棄却されています。

     静岡家判令和3年1月26日では、別居期間約3年5ヶ月、同居期間2年10ヶ月、未成熟子なしという事案で、有責配偶者である夫からの離婚請求について、婚姻破綻は不貞行為のみが原因ではなく、妻やその連れ子との生活上の対立が先行していたこと、別居期間が相当長期であること、未成熟子がいないこと等から、離婚請求は信義則に反しないと判断され、請求が認容されています。

  3. 終わりに

     有責配偶者からの離婚請求の可否は、上個々の具体的な事情に応じて大きく異なります。
     この点に関し、今後も、判例が蓄積されていくと考えられますので、お困りの際は弁護士にご相談ください。

弁護士: 長澤正高