財産分与と債務

財産分与

1 財産分与請求権とは、離婚した者の一方が相手方に対して財産の分与を請求する権利であり(民法768条1項)、当事者間で財産分与の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができ(同条2項)、その場合には家庭裁判所は、「当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情」を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定めるとされています(同条3項)。

財産分与には、①夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産の清算分配(清算的要素)、②離婚後における一方の当時者の生計の維持を図ること(扶養的要素)、③離婚による慰謝料(慰謝料的要素)という3つの要素が含まれるとされていますが(最判昭和46年7月23日等)、中心となるのは清算的要素です。

2 では、当事者間での協議が調わなかったとき、婚姻中に形成された積極財産だけでなく、婚姻中に夫婦の一方が負担した債務が存在する場合に、清算的財産分与としては、その債務はどのように扱われるのでしょうか。

(1)そもそも日常的な家事に関する債務は夫婦の連帯債務となりますが(民法761条)、その  ような日常家事債務に該当しないものでも、当該債務が、夫婦が共同生活を営むことによって生じたもの(例えば住宅ローン、生活費の借入、子どもの教育ローン等)であるときは、公平の観点から財産分与においては考慮されるべきと考えられています。

そのため、積極財産が当該債務より多い時には、積極財産から債務を差し引いた残財産額について、分割割合を決めて分与額を算定するのが一般的です。

(2)しかし、積極財産より負債の方が多い場合、さらには負債しかない場合に、債務自体を一方から他方に負担させるという、負の財産分与が認められるかについては、従来の裁判実務は概ね消極的とみられます。

その理由としては、そもそも「財産の分与を請求できる」等といった民法768条の文言や、「給付を命ずることができる」との人事訴訟法32条2項の文言等からは、財産分与ではあくまでも積極的給付が念頭に置かれていると考えられ、これに対して債務負担を命じる財産分与についてはこれを規定する文言が存在しない、ということがあります。また、実際に、裁判の技術上の問題としてどのような主文によって債務分担を命じるのか、それによって対債権者を含めた関係者間の法的処理をどのように行うかなどについて、難しい問題が生じるためと考えられます。

(3)もっとも、学説では、財産分与が実質的な夫婦財産の清算であることから、債務についても発生原因に寄与している限り財産分与の対象として、それぞれの寄与度に応じて清算することが夫婦間の公平に資するとして、債務の財産分与を肯定する学説も存し、少数ではあるようですが、積極財産の半分を妻に分与すると同時に、銀行借入債務の半分を妻に負担させた裁判例(東京地判平成11年9月3日)など、債務負担を命じた裁判例も存在します。

3 財産分与については、財産及び負債形成の経緯や内容、その他当該夫婦に関する一切の事情が考慮されるため、個別具体的な検討が必要と考えられます。

                                  弁護士 紀 啓子