経営者医師の財産分与

財産分与

1 はじめに

前回のコラム「会社経営者の財産分与」では、財産分与の金額の計算の基本原則である2分の1ルールの例外として、会社経営者である夫側から妻への財産分与の財産分与の割合を「95:5」程度とした事例を紹介しました。今回は、2分の1ルールの他の例外事例として、医師であり病院経営者であった夫側から妻への財産分与の割合を「95:5」程度とした事例を紹介します。

 

2  福岡高等裁判所判決/昭和42年(ネ)第288号、昭和42年(ネ)第289号(判タ244号142頁)

こちらの事案では、夫が病院を経営する医者であり共有財産となる資産が約4億円と多額に及ぶ事案において、以下のとおり、夫側の医師ないし病院経営者としての手腕、能力により多額の資産形成がなされた面が大きい等の理由から、妻への財産分与額としては、2000万円が相当としました。

「財産分与の額であるが、前示の一審原、被告の婚姻継続期間、本件離婚に至った経緯、一審原告の年令、双方の財産状態、婚姻中における一審原告の医業への協力の程度、子の扶養関係等諸般の事情を考慮して、金二〇〇〇万円が相当であると認める。」「この点に関し、一審原告は、財産分与の額は夫である一審被告の財産の二分の一を原則とすべきであると主張する。なるほど、財産分与の本質は夫婦間における実質的共有財産の清算を中核的要素とするものと考えられるから、例えば、夫の財産が全部夫婦の協力により取得されたものでしかも双方の協力の程度に甲乙がないような場合であれば、財産分与の額を定めるにあたり夫の財産の二分の一を基準とすることも確かに妥当であろうが、本件においては、一審被告が前示の如き多額の資産を有するに至ったのは、一審原告の協力もさることながら、一審被告の医師ないし病院経営者としての手腕、能力に負うところが大きいものと認められるうえ、一審原告の別居後に取得された財産もかなりの額にのぼっているのであるから、これらの点を考慮すると財産分与の額の決定につき一審被告の財産の二分の一を基準とすることは妥当性を欠くものといわざるを得ず、一審原告の主張は採用できない。」

弁護士: 立野里佳