福祉業界の通達やガイドライン

福祉事業の専門法令知識

 福祉・介護のサービスを規律するものとして多いものが、通達やガイドラインがありますが、通達やガイドラインに違反してしまった場合について考察しました。

 

1.福祉・介護の通達やガイドライン

 福祉・介護の世界では通達やガイドラインによって規律されていることが多くあります。例えば、お泊りデイサービスは、介護保険法上の介護サービス外のサービスであり、介護保険法に規定されているような基準もありません。法律による規制がないため、利用者にとって好ましくない状況が生じることもありました。そこで、大阪府では「大阪府における指定通所介護事業所等で提供する宿泊サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」が定められていたり、厚生労働省も「指定通所介護事業所等の設備を利用し夜間及び深夜に指定通所介護等以外のサービスを提供する場合の事業の人員、設備及び運営に関する指針について」(老振発第0430第1号ほか)を定めたりしています。

 上記基準や指針は通達やガイドラインであり、法律上の根拠がないものです。

2.ガイドラインや通達の法的性質

 通達とは、行政の一体性を保持する観点から出される命令を書面化したものをいいます。

 ガイドラインとは、行政機関が提示するもので、行政内部の方関係を規定するもの、解約基準や裁量基準となるもの、法律や条例がない場合にその代わりに行政活動の準則となるものなどがある。 

 1で紹介したガイドラインや通達は、行政立法や行政基準と呼ばれるもののうち、行政規則と呼ばれるものに該当します。さらに詳細な区分けでは、解釈基準、指導規則や指導要綱と呼ばれる基準に該当します。

 行政立法や行政基準とは、立法機関ではなく行政機関が制定する法律・規則のような形式の行政活動の基準のことを言います。そのうち、国民の権利・義務に関する内容とは関係なく、行政内部を規定する行政立法や行政基準を行政規則と呼びます。

 解釈基準、指導規則、指導要綱とは、行政規則の中の区分けのうち、法律・条例がない場合にその代わりに行政活動の準則を定めるもので、行政指導の基準となるものを言います(参照:原田大樹、例解行政法:東京大学出版会、2013.10.25、p50~53)。

 

3.ガイドラインや通達に違反した場合

 ガイドラインや通達は、上述のとおり、一般的には国民の権利・義務に関する内容とは関わりない行政内部事項を規定するものであるため、法律の根拠は不要であり、行政内部を拘束するものであることから、裁判所の判断を拘束しないと考えられています。よって、ガイドラインや通達に拘束されることはなく、なんらかの義務付けがされるものではないと言われています。

 しかし、ガイドラインや通達は行政の内部基準であり、国民の権利・義務に関する内容とは関わらないと言っても、実際にはガイドラインや通達によって判断される行政活動に影響されることがあります。たとえば、ガイドラインや通達に反しているとして、法律上の認可・許可が降りない場合などの事実上の不利益や制裁を受けることもあります。

 このように不利益や制裁を受けた場合、そのガイドラインや通達に起因して生ずる法的義務の不存在の確認の訴えを起こすことになるのではないかと考えます(参照:櫻井敬子・橋本博之、行政法第3版:弘文堂、平成23年7月30日、p61~76)。

弁護士: 仲野恭子