収入の減少と婚姻費用

婚姻費用・養育費

婚姻費用は、権利者と義務者の収入を元に計算されますので、義務者の収入が大きく減少した場合には婚姻費用は減額されることになります。しかし、義務者が権利者に対する婚姻費用の支払いを減らすため、自己都合で退職や転職をした場合についても婚姻費用は減額されるのでしょうか。この点について、裁判例では婚姻費用の金額を抑えるために退職や転職をした場合には、公平性を保つため従前の収入を元にして婚姻費用を計算することとされています。

■歯科医である義務者が勤務先の病院を退職し、大学の研究生として勤務を開始した事例
「調停において合意した婚姻費用の分担額について,その変更を求めるには,それが当事者の自由な意思に基づいてされた合意であることからすると,合意当時予測できなかった重大な事情変更が生じた場合など,分担額の変更をやむを得ないものとする事情の変更が必要である。
 そこで,本件についてこれをみるに,前記認定のとおり,相手方は前件調停が成立してから×か月後に就職先を退職し,大学の研究生として勤務して収入を得る状況となっており,平成21年の収入は合計399万7890円となり,前件調停成立時に比して約3割減少していることを認めることができる。相手方は,退職の理由について,人事の都合でやむを得なかった旨主張するが,実際にやむを得なかったか否かはこれを明らかにする証拠がない上,仮に退職がやむを得なかったとしても,その年齢,資格,経験等からみて,同程度の収入を得る稼働能力はあるものと認めることができる。そうすると,相手方が大学の研究生として勤務しているのは,自らの意思で低い収入に甘んじていることとなり,その収入を生活保持義務である婚姻費用分担額算定のための収入とすることはできない。」(大阪高裁平成22年3月3日決定)

婚姻費用については、弁護士にご相談ください。

弁護士: 田代梨沙子