婚姻費用・養育費を算定する場面における自営業者の確定申告書の記載について

婚姻費用・養育費

第1 はじめに 

 婚姻費用及び養育費は、双方の収入によって算定されます。そして、自営業者の収入は、確定申告書の所得金額(=売上-必要経費)から社会保険料を控除し、青色申告特別控除額及び現実に支払いがなされていない専従者給与額の合計額等を加算し、計算します(判タ1209・5)。
 それでは、相手方の確定申告書上の必要経費は不当に水増しされているから、水増し分を相手方の収入に加算すべきであるとの主張は認められるでしょうか。

第2 裁判例

 裁判所は、このような確定申告書上の必要経費が不相当であるとの主張を認めない傾向にあります。
 例えば、名古屋高決平成28年2月19日(判タ1427・116)は、権利者が、義務者に接待交際費が発生するはずがないこと、仕入原価及び広告宣伝費が水増しされて義務者への生活費に充てられていることを理由に、これらの費用を義務者の総収入に加算すべきであると主張した事案で、「一件記録上,抗告人に接待交際費が生じていないこと、上記仕入原価と広告宣伝費が水増しされて義務者の生活費に充てられたことを認めることはできず、上記主張は採用できない。」と権利者による上記主張を一蹴しています。
 しかしながら、確定申告書の記載に拘束されることなく、相手方の生活実態から相手方の収入を推定している裁判例もあります。
 例えば、大阪高決平成21年10月22日は、確定申告書上の所得金額が40余万円であった事案で、「抗告人は相手方に対し、同居中生活費として月額20万円程度を渡しており、平成20年にはこれを増額し、以後月額23万円を渡していたことが認められるところ、抗告人の事業の運営に大きな変動があったとは認められないから、月額23万円程度を生活費に充てることができる程度の収入はあったものと推定され、自営業者の場合には、公租公課、職業費、特別経費等の標準的な割合が概ね5割程度であることにかんがみると、抗告人の年収は550万円(23万円×12か月÷0.5=552万円)はあると認めるのが相当である。」と判断しています。

第3 結語

 このように、婚姻費用あるいは養育費を算定する場面で、裁判所に確定申告書上の記載に反する認定をさせることは極めて困難ではあるものの不可能ではないので、相手方から実態と乖離していると思われる確定申告書が提出された場合は、一度弁護士にご相談されることをおすすめいたします。

弁護士: 林村 涼