払いすぎた婚姻費用の精算が可能か
婚姻費用・養育費
1 はじめに
コラム「扶養的財産分与と過去の婚姻費用分担請求権の関係」では、離婚が成立した場合に過去の婚姻費用分担を求めることが可能か、という点について解説しました。本コラムでは、義務者が婚姻費用を払いすぎていた場合に「財産分与の前渡し」と評価し、財産分与で精算が可能かという点について、検討致します。
2 判例
払いすぎた婚姻費用を財産分与で精算可能かという点については、以下のように判断されています。
【事例】
夫が妻に対して、標準算定方式に基づいて算定した婚姻費用を上回る月平均24万3477円の婚姻費用を支払っていた場合
「別居中の夫婦の婚姻費用分担については,その資産,収入その他一切の事情を考慮して定められるものであり(民法760条),当事者が婚姻費用の分担額に関する処分を求める申立てをした場合(家事審判法9条1項乙類3号)には,調停による合意をするか,審判をすることになる(同法26条1項)。したがって,当事者が自発的に,あるいは合意に基づいて婚姻費用分担をしている場合に,その額が当事者双方の収入や生活状況にかんがみて,著しく相当性を欠くような場合であれば格別,そうでない場合には,当事者が自発的に,あるいは合意に基づいて送金した額が,審判をする際の基準として有用ないわゆる標準的算定方式(判例タイムズ1111号285頁以下)に基づいて算定した額を上回るからといって,超過分を財産分与の前渡しとして評価することは相当ではない。
そして,本件では,抗告人は相手方と婚姻後,家事や育児に専念し,婚姻して10年ほど経ったころから宗教活動に多くの時間を割くようになったが,更に12年ほどは相手方と同居し,宗教活動をしながら育児や家事をする生活を続け,長期間就労していなかったこと,相手方が抗告人や子らを残して出た自宅には家賃を要したことなどにかんがみると,相手方が送金していた,賞与を除く給与の月額手取額の2分の1をやや下回る額(平成17年×月以降はこれを更に下回る月額20万円)が著しく相当性を欠いて過大であったとはいえない。」(平成21年9月4日大阪高等裁判所決定)
3 まとめ
上記の通り、標準算定方式に基づいて算定した婚姻費用を上回る額の婚姻費用を支払っていた場合であっても、著しく相当性を欠く場合を除き財産分与の前渡しと評価することはできないと判断しました。
別居後に婚姻費用を支払う場合には、ぜひ一度弁護士にご相談ください。
弁護士: 田代梨沙子