財産分与と慰謝料
財産分与
1 問題点
協議離婚に際して財産分与については取り決めをしたものの、離婚に伴う慰謝料については特に話をしていなかった場合、元配偶者に対して慰謝料請求をすることはできるのかというご相談を受けることがあります。ご相談者の相手方としては、既に財産分与にて離婚に伴う金銭の支払は済んでおり、支払うつもりはないとして、これを拒絶することがよくあります。
2 裁判例
財産分与後に別途慰謝料を請求することが可能か、という点について、最高裁の判例(最判昭和46年7月23日)は、以下のように述べて、財産分与後にも、特に慰謝料請求は妨げられないとしています。
「離婚における財産分与の制度は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであつて、分与を請求するにあたりその相手方たる当事者が離婚につき有責の者であることを必要とはしないから、財産分与の請求権は、相手方の有責な行為によつて離婚をやむなくされ精神的苦痛を被つたことに対する慰藉料の請求権とは、その性質を必ずしも同じくするものではない。したがつて、すでに財産分与がなされたからといつて、その後不法行為を理由として別途慰藉料の請求をすることは妨げられないというべきである。」
ただし、上記判例も、財産分与の際に損害賠償の要素をも含めて給付がなされた場合で、かつ、財産分与によつて精神的苦痛がすべて慰藉されたといえるときには、もはや慰謝料請求が認められない場合もあるとしており、無制限に慰謝料請求を認めているわけではありません。
3 実務上の留意点
協議離婚の後になって紛争が再燃することは双方にとって望ましくありません。離婚にあたっては離婚協議書を作成し、上記の例であれば、財産分与について合意をする場合で、慰謝料の要素が含まれるのかを明確にしておくべきといえます。紛争が再燃を防ぐため、離婚協議書の作成については弁護士にご相談されることをおすすめいたします。
弁護士: 立野里佳