財産分与請求権の相続の可否2

財産分与

1 はじめに

本コラムでは、離婚成立後に夫婦の一方が死亡した場合に、財産分与請求権がその相続人に相続されるかという点について解説します。

2 財産分与請求権の内容が具体的に確定した後の相続の場合

離婚によって抽象的に財産分与請求権が発生した後、協議又は裁判によってその内容が具体的に定められた後に相続が発生した場合に、当該財産分与請求権が相続されることに争いはないものと思われます。

3 財産分与請求権の内容が具体的に確定する前の相続の場合

離婚によって抽象的に財産分与請求権が発生した後、協議又は裁判によってその内容が具体的に定められる前の段階で相続が発生した場合については、確立した判例や実務上の取扱いがあるわけではありません。この場合、財産分与請求権が抽象的な権利に留まっていることから、その相続性が実務上問題になり得ます。

この点について、離婚後かつ相続発生前に権利者が義務者に対して財産分与を請求した事案につき、具体的内容の確定前でも財産分与請求権の相続性を認めた裁判例があります(名古屋高決昭和27年7月3日・高民集5巻6号265頁)。

他方で、離婚後に権利者が義務者に対して財産分与を請求する前の段階で相続が発生した場合について判断をした刊行物掲載裁判例はありません。もっとも、不法行為による慰謝料請求権が権利行使前であっても相続対象となる確立した判例法理に照らせば(最大判昭和42年11月1日・民集21巻9号2249頁)、このような抽象的権利の段階であっても財産分与請求権が相続されると主張する余地はあるものと思われます。

弁護士: 土井 將