扶養的財産分与と過去の婚姻費用分担請求権の関係
婚姻費用・養育費
1 はじめに
婚姻費用分担の申立てに係る審判又は調停が係属している最中に、離婚が成立した場合、離婚が成立するまでの過去の婚姻費用分担を求めることはできるか、という論点について、扶養的財産分与との関係を踏まえて解説をします。
2 見解の整理
本論点については、従前、①離婚後は、過去の婚姻費用分担請求権は消滅するという見解(消滅説)、②離婚後は、過去の婚姻費用分担請求権は消滅するが、財産分与請求権に性質が変化して存続するという見解(転化説)、③離婚後も、過去の婚姻費用分担請求権は存続するという見解(存続説)に分かれていました。
消滅説及び転化説は、過去の婚姻費用については、扶養的財産分与として考慮すべきことを前提とする見解と考えられます(財産分与と婚姻費用分担請求権との関係について、最判昭和53年11月14日民集32・8・1529は、「離婚訴訟において裁判所が財産分与の額及び方法を定めるについては当事者双方の一切の事情を考慮すべきものである」ところ、「婚姻継続中における過去の婚姻費用の分担の態様は右事情のひとつにほかならないから,裁判所は,当事者の一方が過当に負担した婚姻費用の清算のための給付をも含めて財産分与の額及び方法を定めることができるものと解するのが、相当である。」と判断しています。同最判を受けて、家裁実務では、過去の婚姻費用の精算を含めて、財産分与の額、方法を定めることができるとされています)。
しかしながら、比較的近年の最高裁決定によって、存続説を採用することが明らかとされました(最決令和2年1月23日裁時1740・1)。同最決は、「婚姻費用の分担は,当事者が婚姻関係にあることを前提とするものであるから,婚姻費用分担審判の申立て後に離婚により婚姻関係が終了した場合には,離婚時以後の分の費用につきその分担を同条により求める余地がないことは明らかである。しかし,上記の場合に,婚姻関係にある間に当事者が有していた離婚時までの分の婚姻費用についての実体法上の権利が当然に消滅するものと解すべき理由は何ら存在せず,家庭裁判所は,過去に遡って婚姻費用の分担額を形成決定することができるのであるから(前掲最高裁昭和40年6月30日大法廷決定参照),夫婦の資産,収入その他一切の事情を考慮して,離婚時までの過去の婚姻費用のみの具体的な分担額を形成決定することもできると解するのが相当である。このことは,当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても,異なるものではない。したがって,婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚したとしても,これにより婚姻費用分担請求権が消滅するものとはいえない。」としています。
前掲の最判昭和53年11月14日においても、過去の婚姻費用の精算は財産分与の手続で行うことができるとしていますが、精算方法を財産分与に限る趣旨とは解されず、同最決においても、「当事者が婚姻費用の清算のための給付を含めて財産分与の請求をすることができる場合であっても,異なるものではない。」としています。
3 おわりに
以上、婚姻費用分担の申立てに係る審判又は調停が係属している最中に、離婚が成立した場合における婚姻費用分担請求権の帰趨について解説をしました。離婚が成立し、かつ、過去の婚姻費用を精算しない形での財産分与がなされている場合において意義のある判例と考えられます。本コラムの論点にかかわらず、婚姻費用分担請求、財産分与は複雑な議論をはらんでいますので、お困りの場合はぜひ専門家にご相談ください。
■参照文献
「婚姻費用分担審判の申立て後に当事者が離婚した場合における婚姻費用分担請求権の帰すう」判例タイムズ1475号56頁(2020年10月)
弁護士: 谷 貴洋