高度障害保険金が特有財産にあたるか

財産分与

1 はじめに

夫婦の一人が障害者となり、高度障害保険金を受け取ったものの、その保険料を他方配偶者が支払っていた場合、その保険金が特有財産にあたるかについて、判断した裁判例を紹介いたします。

2 名古屋高裁平成19年4月24日判決

■概要

控訴人(女性)と被控訴人(男性)は夫婦であり、控訴人は、被控訴人と婚姻中に難病である多発性硬化症により徐々に視力を失い失明をし、その後、控訴人と被控訴人が離婚したという事案において、被控訴人が保険金を支払った高度障害保険金が特有財産にあたるかが争われた事案

■控訴人の主張

高度障害保険金は,控訴人の失明という高度障害の発症によって支払われたもので,その趣旨は被保険者の今後の治療と被保険者及び家族の生活を維持,救済するために,権利者である受取人に支払われるものであり,夫婦で築いた財産という性格のものではない。

■被控訴人の主張

被控訴人は,夫婦共同生活を安定的に維持する目的で,高度障害の発病等による夫婦共同生活のリスクを回避するために本件保険契約を締結したものであり,その給料から毎月1万5623円を天引する方法で保険料を支払った。このように被控訴人の一方的かつ全面的な寄与により控訴人は高度障害保険金請求権を取得したのであるから,控訴人の特有財産であると認める余地は全くない。

■裁判所の判断

夫婦は一つの協力体であり,一方の財産取得に対しては他方がそれに協力・寄与する関係にあるとしても,民法は,夫婦の一方が婚姻中自己の名で得た財産はその特有財産とし,帰属不明のものについては夫婦共有と推定する旨定めた上で(同法762条),配偶者の一方が取得した財産に対する他方の協力,寄与に対しては財産分与請求権等の権利を規定し(同法768条等),これらの権利行使によって夫婦間に実質上の不平等が生じないように配慮しているということができる。その意味で同法762条1項の特有財産とは同条2項の共有と対比した意味におけるものであり,これに関する寄与が財産分与において全く考慮されないというものではない。

 したがって,夫婦間の財産の帰属は,あくまで取引等の上において一方配偶者がそれを取得したか否かによって判断し(それが不明であれば共有となる。),他方配偶者のそれに対する寄与等があったとしても,別途財産分与等において考慮されることは別として,当然に当該財産について他方配偶者が共有持分を取得するものではないというべきである。

 これを本件についてみると,上記認定のとおり,控訴人は,本件保険契約において被保険者兼高度障害保険金受取人に指定され,失明をしたことにより,上記契約の保険金受取人の地位に基づき高度障害保険金請求権を取得し,その履行として本件保険金を受領したものであることと,同保険金の性質に鑑みれば,同保険金は,民法762条1項にいう控訴人が自己の名で取得した特有財産というべきであり,それは保険料の負担の有無には左右されないといわなければならない。

 被控訴人らは,控訴人の本件保険金請求権の取得は,本件保険契約の締結や,その保険料の負担など,被控訴人の一方的かつ全面的な寄与によるものであるから,本件保険金は控訴人と被控訴人の共有財産である旨主張するが,上記認定の被控訴人の寄与は婚姻中の夫と妻との協力,扶助義務の範囲内のものと判断されるから,その寄与が財産分与等において考慮され得るということは別段,本件保険金が当然に被控訴人と控訴人との共有となるものということはできない。

3 まとめ

以上のとおり、裁判例は、他方配偶者が保険料を支払っていた場合においても、障害者となった配偶者が受けとった保険金は特有財産となると判断し、そのうえで他方配偶者の寄与は財産分与の中で考慮すべきと判断しました。

財産分与について、お悩みの方は是非一度専門家にご相談ください。

弁護士: 伊藤由香